卓話全文を掲載しております。
2023・12・15
ロータリー卓話
下村 俊宏
私事で恐縮ですが、今年7月で70歳になり、いわゆる古希を迎えました。「人生七十古来稀なり」という中国の詩人杜甫の詩の一節に由来しているそうですが、杜甫が活躍した西暦700年頃の寿命はせいぜい70歳ぐらいだったのでしょう。そう思えばいい時代に生まれたなということになりますが、個人的には先の見えない未知の世界に足を踏み入れたという感じがしています。
70歳の平均余命は15年だそうなので、仮に15年生きたとして、その間未来志向でやり残したことをやるという発想が大事ではないかと思っております。改めて自分の今の状態と身の丈を正確に把握し、今後どう生き残っていくかを考えるのは悪いことではないと思います。これは「戦略的思考」にほかなりません。今思えば、小学校一年生のころから囲碁をやっていたせいか、いわゆる「戦略的思考」に基づいて考えるということがいつの間にか身についていたのかもしれません。
そこで本日はこの「戦略的思考」についてお話したいと思います。そもそも「戦略的思考」は軍事だけでなく会社経営や投資活動、スポーツやゲーム、そして人生も含め全てに応用されています。医療においても正しい診断をし、適切な治療計画をたてそれを実行しなければなりませんし、介護におけるケアプランにおいても、最初にアセスメントし長期と短期の目標を設定し、計画書を作成しサービスの提供ということになります。
ロータリーにおいても長期ビジョン委員会の中で、5年後あるいは10年後に西クラブがどうあったらよいかというビジョン(想い)を描き、そうなるための方向性(戦略)を考え、そのためにはどのようなアクション(戦術)を起こさねばならないかを皆で考えようということです。戦略計画をたてる人が「戦略的思考」を身に着けるには戦略に関する知識の修得と同時に、思考能力の涵養が大事であるのは言うまでもありません。ただし、人生に真剣に向き合っていろいろ思考をめぐらしている人は、あえて戦略論を勉強する必要はないです。ただ個人的には、過去の無数の戦争の中に人生を豊かに生きていくためのヒントが隠されているのではと思っているので、戦略を体系立てて学んでいきたいと思っています。興味がない人もおられると思いますが、少しの時間お付き合いしていただけたらと思います。
さて戦略とはもともと軍事学の専門用語であり、世界で最初に戦略の概念を使用したのは今から遡ること2500年前の春秋戦国時代に著された「孫子」だと考えられています。中国、日本だけでなく世界中にその影響を与えており、今もなお戦略論の名著として読まれています。「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」とか「戦わずして勝つのが最善の策である」とか、「風林火山」もご存じだと思います。その後多くの戦略思想家たちの叡智が注がれた戦略論の名著が生まれています。本当に平和を希求するのであるなら、戦争の中に現れる人間の弱さや浅ましさ、愚かな感情すべてを、平常心をもってリアリティとして受け入れる必要があり、これこそが真のリアリズム(現実主義)だと言えるのではないでしょうか。